『 医学原論  (上) 』―医学教育 講義

瀬江千史 著

「医学体系」とは、医療実践で明らかになった事実を正面に据えて、人間とは何かをふまえながら、それらの事実の論理化をはかり、さらに理論化し、体系化することによって、構築していくものである。

その「医学体系」には、正常な生理構造が病む過程を究明した理論(病態論)と、病んだ生理構造の回復過程を究明した理論(治療論)の、二つの柱となる理論が存在する。
そして、この二つの理論の構築は、あくまでも、人間の正常な生理構造を究明した理論(常態論)をその基盤に据えることによって初めて可能となるものである。

本書では、この「医学体系」を説くにあたって、なぜ「医学体系」が必要なのかを明らかにしている。
それは、端的には、医療実践の事実を論理化して、理論化して、体系化したものである「医学体系」を、医療の現場に戻って実践に適用することで初めて、医療実践は本当に見事になり得るからであり、さらには、そのような見事な実践を行なえる医師を育てることが、本来の医学教育だからである。

【上巻】
■ 第1版/2017年/四六判/288頁/
■定価 2,800円 (税別)/ISBN 978-4-87474-183-2

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目次

【 第1編 】 学問としての医学体系の必要性

■第1章 医学体系はなぜ必要か

第1節 医学の体系化へ向けて出立する
第2節 医療過誤が頻発する医療現場の混乱
第3節 医学教育改革への取り組み
第4節 医学教育改革の内容を検討する
第5節 医学教育の「教育内容ガイドライン」には体系性がない
第6節 医師とは何かが欠如した「教育内容ガイドライン」
第7節 「教育内容ガイドライン」を体系的に説く
第8節 医学体系の必要性

■第2章 「医学体系」と「医療実践」と「医学教育」の関係

第1節 医学体系と医療実践の関係
第2節 医療実践から医学体系構築への道程
第3節 医学教育は医療実践・医学体系とどう関わるか
第4節 あらゆる病気に共通な一つの筋道はあるか
第5節 歴史的に病気はどのように分類されてきたか
第6節 医学教育における教科書の重要性
第7節 教科書による医学生の具体的な学ばせ方
第8節 教科書を使わない医学教育の弊害
第9節 医学教育に取り入れられたチュートリアル批判
第10節 医学生の実力がつく基本から応用への学びの過程

■第3章 医学体系は医療実践から導き出した論理の大系である

第1節 学問とは現実の王国に対して精神の王国である
第2節 学問体系は現実の世界と何重にもつながっている
第3節 医学体系は医師としての実践なしには構築できない
第4節 学問体系は本質論に統括される論理の大系である
第5節 論理能力の養成に逆行する医学教育の現実
第6節 医学体系の本質論と構造論
第7節 現象論にも届かない医学書の内実

【 第2編 】 医学体系構築の過程的構造

■第1章 医学体系における現象論とは何か

第1節 医学体系における現象論の位置づけ
第2節 現象論構築に必要な医療の発展過程
第3節 医療の発展は人体の内部構造への分け入りによって
第4節 『ヒポクラテス全集』と「現代の医学書」を比較する
第5節 学問への萌芽形態を持つ『ヒポクラテス全集』
第6節 病態論の構造を提示する

■第2章 現象論の構築に必須の一般論

第1節 医学体系構築の過程的構造
第2節 構造論の構築過程に必要な仮説的一般論
第3節 現象論は医学体系のどこに位置づけられるのか
第4節 現象論として腎臓病論を取りあげる
第5節 病気は歴史的にどのように分類されてきたか
第6節 病気の分類の歴史は大きく二段階に分けることができる
第7節 病気の分類の細分化は病気の全体像を欠落させる
第8節 教科書には腎臓病の全体像が欠落している
第9節 あらためて医学体系の必要性を問う

■第3章 現象論としての腎臓病論の構築過程

第1節 腎臓病論構築に必要な二つの理論
第2節 そもそも腎臓とは選別器官である
第3節 腎臓による選別の必然性を説く
1)生命体としての一般性からの選別の必然性
2)哺乳類としての特殊性からの選別の必然性
3)人間としての特殊性からの選別の必然性
第4節 腎臓病論の一般論とは何か
第5節 腎臓病論の一般論と事実との連関
第6節 腎臓病の教科書に見る論理性の欠如
第7節 腎臓病を一般化する試み

■第4章 腎臓病論の構造論に必須の過程的構造

第1節 慢性腎臓病なる病名の意味するもの
第2節 慢性腎臓病とは概念ではない
第3節 腎臓病論の構造論は過程的構造論でなければならない
第4節 病気の一般論の表象レベルの図を示す
第5節 人間の内部構造における腎臓の役割
第6節 腎臓の実体的・機能的構造
第7節 腎臓は排泄器官ではなく選別器官である
第8節 腎臓の形成及び成長過程
第9節 腎臓が病気へと至る過程的構造
1)腎臓の機能の歪みと実体の歪み
2)腎臓が外界との相互浸透で歪んでいく過程
第10節 腎臓病論の概要

【 特別編 】 学問体系構築に必須の弁証法と認識論

■第1章 学的弁証法の研鑽過程

第1節 医学体系構築に必須の新・旧二つの弁証法
第2節 医学体系構築に向けての弁証法の研鑽過程

■第2章 学的認識論の研鑽過程

第1節 医学体系構築に必須の認識論
第2節 認識=像であることの基本的学び
第3節 認識=像であることを無視した医学教育
第4節 医師は文字ではなく現実の実像を描けなければならない
第5節 学問体系構築に必須の像(論理的像)を描く実力
第6節 哲学の歴史は認識学により解明される