『看護覚え書』(第8版)―看護であること看護でないこと― (※最新版)
フロレンス・ナイチンゲール著
湯槇 ます、薄井 坦子、小玉 香津子、田村 眞、小南 吉彦 翻訳
■ 第8版/2023年/菊判/308頁
■ 定価 1,800円 (税別) ■ ISBN: 978-4-87474-199-3
■電子教科書取り扱い:医書ジェーピー, 丸善, NTT EDX
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現代社版『看護覚え書』は、原本(底本)に第二版(補章付き)を使用しています。
『看護覚え書』の原本第二版には、本文に加えて「看護師とは何か」を含む「補章」(約四〇頁)が加筆されています。この「補章」は、ナイチンゲールが最も深く看護を語っている文章で、この「補章」がない『看護覚え書』からは、正しくナイチンゲール思想を読み取ることはできません。
本書は、ナイチンゲールによって一世紀以上も前に書かれ、現在も看護の思想の原点となっている “ Notes on Nursing ” の完訳 です。
「看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさ、などを 適切に整え、食事内容を適切に選択し 適切に与えること ― こういったことのすべてを、患者の生命力の消耗を最小にするように整えること、を意味すべきである」 と看護の原点と基本的原理を論述する本書は、すべての看護を学ぶ者の必読の書です。
また、本書には、他の訳本には決して見られない、多くの優れた特性があります。
(1) 「看護専門家」を中心にした、ナイチンゲール研究の「専門家集団」 による翻訳である。
※ 5名の翻訳者団の構成は、3名の看護師、1名の医師、1名の臨床心理学者です。
(2) 「徹底した検討討議」による共訳の産物である。
※ 5名の訳者が、それぞれの専門的視点から読み取り、それらを突き合わせて討論を重ね、了解と納得に達した上での解釈と訳文です。
その基盤には、多くのナイチンゲールの著作を研究し翻訳してきた学問的な実績の積み重ねの裏付けがあります。単に『看護覚え書』だけを拾い出したものではありません。
(3) 50年以上にわたる「ナイチンゲール研究の蓄積」が反映されている。
※ 1965年からの研究開始としても、その訳者団による、50年以上にもわたる研究の成果の結晶としての、現代社版なのです。
(4) 世界で初めて、第2版に第3版の16章「赤ん坊の世話」の章を付録として編纂された版である。
※本書には、付録として原文 第3版の第16章 「赤ん坊の世話」 が付せられていますが、 原文の第2版と「赤ん坊の世話」の組合せという編集は世界初の試みであり、その後、英国の研究者によって、その意義が見事に実証されました。
(5) ナイチンゲール研究の進展と共に、「7回にわたる改訳」を重ねてきた実績をもっている。
(6) 多くの読者や識者からの意見や提案などを反映した「超共訳書」であり、看護界および介護界に定着した『定訳・看護覚え書』であり、 看護界と介護界にとっての共有の知的財産とさえ言える。
(7) 詳細を極める「用語索引」で、ナイチンゲール思想をより多角的かつ統合的に把握することができる。
(8)文字配列が「縦書き」で、「大きな文字」を使っているので、読みやすく理解しやすい。
目次
序章
Ⅰ.病気とは回復過程である
・病気につきものと思われている苦痛の原因は、必ずしも
その病気によるものではない
・看護は何をなすべきか
・病人の看護はほとんど理解されていない
・看護は回復過程を支援すべきである
Ⅱ.健康人の看護もほとんど理解されていない
・高い死亡率から引き出される奇妙な推論
・子供の寿命は、衛生状態を判定する一つの基準である
1.換気と保温
・看護の第一原則は、屋内空気を屋外空気と同じく清浄に保つこと
・なぜ使わない部屋を閉め切っておくのか
・よく見かけられる狂気の沙汰
・病人を冷やすことなく換気する方法
・窓を開けること
・どのような保温が適切か
・ほとんどの寝室は不潔である
・窓の開け方
・学校
・作業室
・空気検査計が絶対に必要
・保温について細心の注意が求められるのはどのようなときか
・湯たんぽ
・寒くするのが換気ではなく、新鮮な空気の採り入れは部屋を冷やすためではない
(患者を冷やすことなく換気はできる)
・吹抜け風
・夜気
・空気は戸外から入れること。窓は開け、ドアは閉める
・煙(けむり)
・病室内で湿ったものを乾かさないこと
・排泄物からの悪臭
・蓋(ふた)付きでない寝室用便器
・病室を下水溝にしてはならない
・汚水桶は廃止する
・燻蒸剤
2.住居の健康
・住居の健康についての五つの基本的要点
馬車の衛生
(1) 清浄な空気
(2) 清浄な水
(3) 下水溝
下水溜
(4) 清潔
(5) 陽光
・住居の健康管理についての、よくある三つの誤り
・責任者の責任は、住居の衛生について配慮するところにあり、
自身で実行するだけでないこと
・神はこれらのことを、それほど重大に考えておられるのか?
・神はご自分の法則をどのように実行されるか?
・神はご自分の法則をどのように教えられるか?
・召使いたちの部屋
・身体的に退化していく家系と、その原因
・肺結核は、汚れた空気により引き起こされる
・兵士たちと「若い貴婦人たち」
・肺結核は、遺伝性で避けられない病気なのか?
・不健康な地域に見られる出生と死亡の増加現象
・病室を家全体の換気口にしないこと
・感染
・病気とは、犬や猫というように分類される「個別存在」ではなく、
互いに変化していく「状態」である
・なぜ子供たちは、麻疹その他にかからなくてはならないのか
3.小管理
・小管理とは
・小管理が行き届いていなかった実例
・病室にとびこんでくる見知らぬ人
・病室が、家全体の換気口になる
・使われない部屋が、家全体を汚染する
・ペンキのにおいがいつまでも抜けないのは注意不足による
・手紙や伝言が、届いたり届かなかったり
・いったいなぜ患者を驚かされるような目にあわせるのか
・「なるべく自分が勤務する」という中途半端な努力が、かえって患者の不安を
かき立てる。 なぜならそれは、しょせん中途半端でしかないからである
・事故発生の半分の原因は何か
・小管理は個人の家よりも施設においてよく理解されている
・例外の施設もある
・連隊病院における看護
・「責任を負う」人たちが自身に問うべき問い
・「責任を負う」とはどういうことか
・なぜ派出看護師に問題が多いか
・看護師に「看護すること」が期待されていない
―優れた看護師がすくない理由
4.物音
・不必要な物音
・寝入りばなの患者を絶対に起こさないこと
・予感をかきたてる物音
・病室内でのひそひそ話
・あるいは、ドアのすぐ外でのひそひそ話
・わざとらしさ
・女性の衣服がたてるきぬずれの音
・音をたてる看護師を患者は嫌悪する
・ペチコートでふくらませたスカートが燃える
・ペチコートでふくらませたスカートのぶざまさ
・看護師から自分を守らざるを得ない患者たち
・急かされることは病人にとって特に有害
・病人に害を与えない対応の仕方
・これらは決して空想ではない
・病人に害を与える思考の中断
・健康人にも害を与える思考の中断
・患者を立ちっぱなしにさせないこと
・立ち歩きしている患者には声をかけない
・患者は驚かされることを恐れる
・努力し過ぎた影響が病人に現れるとき
・不注意な訪問の結果についての不注意な観察
・病人のベッドにもたれないこと
・実際の病気と想像上の病気との違い
・病人に接するには簡潔さが必要
・それに加えて沈着さも必要
・患者にとって優柔不断は最悪の苦痛
・患者に気を使わせてはならないこと
・患者のための書物の朗読
(1) 朗読はゆっくり、はっきり、落着いて
病人には読み聞かせるよりも語り聞かせる方が良い
(2) ときどき思い出したような音読をしてはならない
階上のひとの物音
音楽
5.変化
・変化は回復をもたらすひとつの手段
・色彩も形も回復の手段
・これは決して空想ではない
・花
・からだがこころにおよぼす影響
・病人は身体的苦痛と同様、精神的苦痛によっても非常に苦しむ
・病人の想いに変化をもたせるように援助する
・「窓の外を見たい」という病人の切なる願い
・色彩が身体におよぼす影響
・病人の奪われた手仕事を埋め合わせる
6.食事
・食事の時間帯についての注意不足
・生命は往々にして食事時刻の数分のずれに左右される
・慢性病の患者によく起こる餓死
・食物を患者のそばに置き放しにしない
・患者は、自分の食事以外の食物を見ない方が良い
・病人食の品質には注意の上にも注意すること
・看護師は、患者の食物について思考の基準をもつべきこと
・看護師は、患者の食事時刻についての基準をもつべきこと
・患者のカップの底をぬらさないこと
7.食物の選択
・病人食についてのよくある誤り
・牛肉スープ
・卵(たまご)
・肉ばかりで野菜をとらない
・葛粉(くずこ)
・牛乳・バター・クリーム・その他
・特殊な病気のときに特殊な食物を欲しがることには意味がある
・甘いもの
・ゼリー
・牛肉スープ
・病人食の決定は化学によらず観察によらなければならない
・自家焼きの黒パン
・病人の食物についての正確な観察はまだほとんど確立されていない
・紅茶とコーヒー
・ココア
・飲食物の量
8.ベッドと寝具類
・発熱は寝具がもたらすひとつの症状
・寝具類はたいてい汚れて不潔
・洗濯後のシーツだけでなく使用中のシーツにも風を通す
・鉄製でバネのついたベッド枠が最良
・安楽と清潔のためにはベッドが二台あるとよい
・ベッドは広過ぎないこと
・ベッドは高過ぎないこと
・ベッドは薄暗いところには置かないこと
・カーテンつきの四柱ベッドも避けること
・るいれき症の多くは、掛け布団の掛け方に起因する
・褥瘡(じょくそう)
・重いうえに、通気性のない掛け布団
・自分の責任は病人にだけあって病室にはないと考える看護師が多い
・枕(まくら)
・病人用の椅子
9.陽光
・陽光は、健康にも回復にも不可欠である
・部屋の向きと見晴しと陽光とは、病人にとって最も重要
・陽光なしでは人間は、心身ともに退化する
・ほとんどの患者たちが、顔を光へ向けて横になる
10.部屋と壁の清潔
・絨緞(じゅうたん)と家具の清潔
・現状は、ほこりは全く掃き出されていない
・どのように部屋のほこりは払われ、またどのようにまき散らされているか
・病室の床(ゆか)
・床(ゆか)の水洗い
・壁紙と、漆喰壁とペンキ塗り壁
・壁紙とペンキ塗りとでは部屋の空気がまったく違う
・衣類を汚して壁をきれいにする方法
・病室に最も適した壁
・部屋が汚染される三つの原因
(1) 室外からくる不潔な空気
最も望ましい家の外壁
(2) 室内に生じる不潔な空気
(3) 敷物から出てくる不潔な空気
対策
11.からだの清潔
・皮膚から入ってくる毒物
・換気と皮膚の清潔は等しく重要な看護の基本
・皮膚を蒸してこする
・軟水
12.おせっかいな励ましと忠告
・病人に忠告すること
・おせっかいな励ましは患者にとっては災いである
・患者は自分のことを語りたがらない
・分別あるひとたちが患者のためになると信じてよくする話のなかに出てくる
愚かな統計的比較
・病人のためになると信じてなされる愚かな慰め
・忠告者たちの驚くべき大胆な忠告
・忠告者たちは二百年前とちっとも変わらない
・病人に与えられる忠告のこっけいさ
・病人に喜びを与える方法
・この時代に特有の新しい二種類の患者層
13.病人の観察
・「ご病人はいかがですか?」という質問は何かの役に立つだろうか?
・真相がとらえられないのは観察不足の結果である
・誘導的な質問は役に立たず、また誤解をまねく
・不正確な情報をもたらすやり方
・食事を患者が食べるか食べないかについて
・患者を動かさないようにすることよりも患者を思い煩わさないように
することのほうが重要である
・下痢について不正確な情報をもたらす質問の仕方
・正確にしてすばやい観察を身につけさせる方法
・看護師には正確にしてすばやい観察が必要
・英国の女性は緻密な観察の能力を持っていながら実際にはほとんど
用いていない
・興奮しやすい気質と《累積的》な気質との違い
・迷信は観察の誤りから生ずる
・病気に特有の顔つきについてはほとんど知られていない
・患者ひとりひとりの個別性
・看護師は患者の衰弱の進行を自分で観察すること、患者は看護師にそれを
教えたりはしない
・看護師の観察不足から生ずる事故
・観察の能力は衰えつつある?
・死に際して誰もが、小説にあるように、必ず蒼白になるとは限らない
・正確な判断をはばむ二つの思考の習癖
(1) 一般状態についての観察の不足
眼に見えるところのみが観察されて一般状態が暗示していることが
観察されていない
脈拍
正確な判断を得るためには、現在の患者の状態のみならず、今後の彼の
行動の予測も考慮に入れておくこと
(2) 「平均死亡率」は百人中何人が死ぬかを教えるのみであるが、観察は
そのうちの誰が死ぬかを教える
・観察は何のためにするか
・信頼のおける看護師はどうあるべきか
・観察の目的は実践にある
14.おわりに
・衛生看護は内科患者と同様に外科患者にとっても必須であるが、
外科看護技術にとってかわるものではない
・子供は同じ原因に対しても、はるかに強い感受性を示す
・要約
(1) 女性の無謀なしろうと療法。
健康の法則の正しい知識のみが、これを阻止する
(2) 病理学が教えることと観察が教えること。
医学がなしうることと自然がなしうること
(3) 何が良い看護師を育てないか
現代における二つのたわごと
15.補章
1.看護師とは何か
・見つめられていると思わせるのは、良い看護ではない
・経験とは何か
・看護師は自分の仕事に使命感を持つべきである
・使命感を持っている看護師
・使命感を持っていない看護師
・男性が下している看護師の定義
・女性が下している看護師の定義
・看護師の職務の基本的要素
・「看護師が部屋に入ってくるのが恐ろしい」
・病床でなされなければならない観察
2.回復期
・病気についてのヒントは回復期患者には通用しない
・病相期と回復期との違い
・外科患者は病気であるはずがない
・回復期には節度が必要
・回復期患者の食欲
・回復期患者の想像力
・転地が基本である
・回復期病院
・回復期患者には田舎の空気だけでなく看護も必要である
3.ロンドンの子供たち
・病人だけでなく、「ひ弱な」子供たちをも救う
―「ひ弱」は過保護がもたらし、過保護は人工物を与え過ぎる階級に多い
・「ロンドンの生活」ではなく、「ロンドンの空気」が災いの種
・田舎の生活で得られた健康も、街に帰れば失われる
・田舎の家は無知の害に強いが、ロンドンの家は小さな無知で害される
・常に「食事のにおい検査」を怠らないこと
・都会の子供たちが外出するとしても、ヒモにつながれた犬のようにか、
馬車に乗せられてかである
・見当はずれで不要な恐怖も、それが続くと正当になる
・お行儀よくしつけられてしまった結果、生気を失ってしまった犠牲者たち
・子供たちにおよぶ三つの害
・食欲テスト ―田舎のばあいと都会のばあい
・病人に与えるように子供たちに紅茶を与えてはならない
・要約
4.小説のなかのいくつかの誤りに関する覚え書
(1) 回復期の喜び
(2) いとこ同士の結婚
(3) 小説のなかの臨終場面の非現実性
(4) 病人食
(5) 感染
5.床塗りの方法
6.女性の雇用に関する覚え書
7.大英帝国において看護師として雇用されている女性の数に関する覚え書
16.(付録)赤ん坊の世話