『医療実践方法を論理の学に(2)』―初期研修医に症例の見方・考え方の筋道を説く

聖 瞳子 / 高遠 雅志 / 九条 静 / 北条 亮 / 池邉 修二 / 新海 武史 著

本書は日々医療現場で奮闘している初期研修医の方々に、医師としての実力をしっかりつけてもらいたい、との願いを込めて書かれたものである。
初期研修医向けの本はこれまでも数多く出版されてきているが、従来のものは研修医として身につけるべき手技や注意点などを、ハウツウ的に解説するものばかりであった。確かにそのような知識やノウハウも大切であるが、それら従来の本には残念ながら最も肝心なことが抜け落ちていた。
その肝心なこととは何かといえば、医師としてどのような患者を診療する場合にも、常にその判断の拠り所となって正しい考えへと導いてくれる“確固たる指針”である。
この指針が頭の中に把持されていないと、必ずしも教科書的な症候の患者ばかりでない現実の診療の場で、ときとして誤診などのミスを犯しかねない。本書は、おもに初期研修医の方を対象に、その指針となる“理論”を説く書である。
学的レベルの《病気の一般論》を核とした、科学的医学体系に基づくその理論をわかりやすく説くために、本書では実際に初期研修医が診療のなかで経験した症例を挙げて、指導医と研修医によるリアルな対話形式で論が展開されていく。
医師の実力とは本来、単に知識や経験の量だけでなく、指針となる理論を実践に活かせる技量によっても評価されるべきものである。
実力ある 医師をめざす初期研修医の方々に、本書で是非その理論を学んで欲しい。

■現代社白鳳選書 51
【第2巻】  第1版/2022年/280頁/定価 2,700円 (税別)
四六判/ISBN 978-4-87474-196-2

目次

序 章  「医学体系に基づく実践方法論」を理解するために  9
第1節 医療実践を導く「確かな指針」とは 9
(1)研修医としての不安と悩み 9
(2)診療を導いてくれる「確かな指針」を求めて 11
第2節 「医学体系に基づいた実践方法論」とは何か 12
(1)すべての病気を同じ考え方の筋道で解明できる 12
(2)同じ考え方の筋道とは「病気の一般論」である 15
(3)「病気の一般論」から症例を考える 17
第3節 実践方法論に必要な「器官系ごとの病気の論理」 21
(1)「医学体系」は論理の体系である 21
(2) 「病気の一般論」の下に
「器官系ごとの病気の論理」が位置づけられる 24
(3) 症例を考えるのになぜ
「器官系ごとの病気の論理」が必要か 28
第4節 症例ごとに注目して読んでほしい点とは何か 32
第1章 急性 A 型肝炎の症例  36
第1節  病気の一般論をふまえて
「肝臓病とは何か」の論理を問うた症例 36
(1) 急性 A 型肝炎の症例を説くために
「肝臓とは何か」を把握する必要があった 36
(2)症例の提示 36
第2節 症例を医学体系の全体像をふまえて検討していく 40
第3節 「肝臓とは何か」という肝臓の論理を問う 46
(1)教科書に記載されている肝臓の事実 46
(2) 教科書における肝臓に関する説明から
疑問に思うこととは何か 48
第4節 生命の歴史から「肝臓とは何か」を説く 50
第5節  「肝臓とは何か」の論理から
肝臓の事実の構造を考える 56
第6節  「肝臓とは何か」の論理をふまえて
人間の肝臓の特殊性を把握する 59
第7節 「肝臓病とは何か」の論理を問う 63
(1)教科書における肝臓病の目次を見る 63
(2)肝臓病とは何か 66
(3)肝臓系の病気についての論理的 理論的な目次を示す 69
(4) 肝臓系の病気について論理的 理論的に学ぶとは
どういうことか 73
第8節  「肝臓病とは何か」の論理をふまえて
患者の病態の構造を見ていく 75
(1) 一般論をふまえて患者の生理構造が
歪んだ状態の構造を見ていこう 75
(2)肝炎による「全身倦怠感」の構造を説く 78
(3)肝炎による「消化器症状」の構造を説く 86
第9節 急性 A 型肝炎発病への過程的構造を説く 91
第10節 本症例のまとめ 98
第2章 マイコプラズマ肺炎の症例  100
第1節  小児マイコプラズマ肺炎を「呼吸とは」
「小児期の特殊性」から検討した症例 100
(1)小児のマイコプラズマ肺炎を理論的に検討するためには 100
(2)症例の提示 100
第2節  医学体系の全体像からマイコプラズマ肺炎症例の
病態の構造を捉える 103
(1)研修医の症例患児の病態に対する捉え方 103
(2) 小児の病気の特殊的一般性をふまえて
患児の経過における問題点を問う 105
第3節  患児の正常な生理構造が
歪んだ状態へ至る過程を見ていこう 109
(1)患児の正常な生理構造が歪んだ状態へ至る過程の事実 109
(2) 患児の正常な生理構造の状態から
歪んだ状態へ至る過程の構造を説く 115
① 人間一般から捉えた学童期の特殊的一般性を見よう 115
② 学童期の特殊的一般性から
患児の生理構造が歪んでいく過程を捉える 120
(3) 患児がなぜ肺炎にまで至ったのかの構造を
見ていくために必要なこととは 126
第4節  「呼吸とは何か」「呼吸系の器官とは何か」についての
教科書の説明 128
(1)教科書による呼吸器官の生理構造の知識的な学び 128
(2)教科書による呼吸器官の生理構造の説明の欠陥 131
(3) 呼吸の生理構造を生き生きとした像として
描く必要性がある 133
第5節  生命の歴史から「呼吸とは何か」
「呼吸系の器官とは何か」の論理を捉える 137
(1)「呼吸とは何か」を把握するために生命の歴史を辿る 137
(2)生命の歴史における呼吸および呼吸系の器官の発展過程 140
(3) 「呼吸とは何か」「呼吸系の器官とは何か」から
「呼吸系の病気とは何か」を問う 145
(4) 「呼吸とは何か」「呼吸系の器官とは何か」から
「気道の構造と機能」を捉える 147
第6節  「呼吸系の器官とは何か」「呼吸系の病気とは何か」の
論理から患児の病態を説く 148
(1)患児の呼吸系の器官の歪みの構造を説く 148
(2) マイコプラズマと人間における
相互浸透のあり方の特殊性を説く 153
① マイコプラズマに関する一般的な知見 153
② マイコプラズマの特殊性と人間の成長過程をふまえて
病態の構造を説く 156
第7節 本症例のまとめ 164
第3章 左上肢筋力低下および筋萎縮が生じた症例  169
第1節  病気の一般論をふまえて「診断とは何か」
「治療とは何か」を問うた症例 169
(1)本症例は診断に至るまでに苦慮した症例である 169
(2)症例の提示 170
第2節 医学体系の全体像に関する研修医の疑問 174
第3節 患者の生理構造が歪んだ状態を捉える 177
(1)当院初診時における患者の生理構造の歪みを捉える 177
(2)頸部(主に頸椎と神経根)の正常な生理構造 178
(3) 左上肢筋力低下と筋萎縮が出現した前後の
詳細な問診から得た事実 184
(4)患者の生理構造が歪んだ状態を像として描く 188
① 頸部の内部構造が徐々に変化していった過程を説く 188
② 頸部における内部構造が急激に変化していった
構造を説く 189
ⅰ) 内部構造が急激に変化していった時の
体全体の具体的な像 189
ⅱ) 内部構造が急激に変化していった時の
頸部の状態の具体的な像 192
第4節  患者の正常な生理構造が
歪んでいく過程を捉えるために
――頸椎症の成因についての教科書的なまとめ 195
第5節 生命体における脊椎を中心とした骨の形成を見る 197
(1)魚類における骨の形成 197
(2)脊椎を中心とした骨の発展――両生類と哺乳類 207
(3) 脊椎を中心とした骨の発展
――サルからヒト,そして人間へ 213
(4)人間の認識の特殊性による運動器官の変化の構造とは 222
第6節 人間の頸部の正常な生理構造とその歪み 228
(1)人間の頸部の運動の一般的な構造 228
(2)椎間板の正常な生理構造とその歪みの構造 231
第7節 症例患者における頸椎症への歪みの過程を捉える 236
(1)患者の正常な生理構造が歪んでいく過程の事実 236
(2)患者の運動形態を問う――偏った運動のし過ぎとは 241
(3)患者の頸部の生理構造が歪んでいく過程を問う 246
第8節  頸椎症性神経根症および筋萎縮症に対する
治療の過程を説く 253
(1) 頸椎症性筋萎縮症に対する教科書的な治療方法と
症例患者の治療の事実 253
(2) 前医の「経過観察」と私達の「経過観察」との
構造の違いとは何か 255
(3) 患者の生理構造の歪みをふまえた上で
治療の過程的構造を説く 258
(4) 患者の生理構造が歪んだ状態から正常な状態への
過程的構造をふまえた治療方針 263
① 「保存療法」を選択する理由とその構造とは 263
② 治療の重層的な構造とは 266
引用 参考文献  273