『人体美学(上巻)』―美術解剖学を基礎として

西田正秋 著作集

故・西田正秋教授は、日本の美術解剖学の祖である森 林太郎(鴎外)、久米桂一郎の後任として、1926年から東京美術学校で「西田式美術解剖学」の講義をおこなった。

本書の内容の多くは、遺稿として残された120冊の研究ノートからの転記である。

本書は、整然とした体系指向による序列、つまり抽象論・一般論から具象論・各論へ、原理論から応用論へ、そして形象諸美学へ というように厳格な論旨に貫かれている、まさに人体美学の金字塔といえる内容である。

■B5判・上製本・ケース入
【上巻 】 第1版/1992年/440頁/定価 7,000円 (税別)
ISBN 978-4-87474-072-9

目次

序言/美術解剖学断想

【第1部】

1.美術解剖学

鴎外先生と美術解剖学/恩師久米先生との邂逅/趣味の美術解剖学

(1)緒言
(2)美術解剖略史 前提/上古/中古/近古/現代/挿図説明
(3)美術解剖学の意義
(4)体幹
体幹後面/胸郭前面/腹部前面/体幹側面/体幹の権衡/挿図説明
(5)上肢帯 肩の表情
(6)自由上肢 肘と手の表情/挿図説明
(7)骨盤 骨盤の形状/外表と動勢/男女盤の比較/美術上の骨盤
(8)下肢 大腿の骨肉/大腿の運動と動勢/下腿の骨肉/足の種々相
(9)頸部
(10)頭と顔・静的研究
頭蓋部/顔面部/顔全体の権衡/頭髪/額/眉/上瞼/睫毛/目/鼻/頬/鼻下/口唇/歯/頤/鬚髯/横顔/耳/挿図説明
(11)顔面・動的表情
表情筋/前頭筋/眼輪筋/皺眉筋/鼻根筋/鼻筋/上唇方形筋/大頬骨筋/笑筋/口角挙筋/口輪筋/上唇門歯筋・下唇門歯筋/頬筋/下唇下制筋/口角下制筋/咬筋/外耳筋/広頸筋/目/他

2.人体美学予備論 ―美と芸術への基礎知識

(1)序論
1.基礎知識の必要性
2.美の段階(Gradations of Beauty) 花の美/葉の美/枯葉の美
3.困難な美(Difficult beauty)
牡丹に孔雀対枯葉に烏/金殿玉楼対賤ヶ伏屋/
文豪の小説/裸体像
(2)美学
(3)形象美学
(4)形体と現象 富士山/水/花/人体学(Somatology)/芸術/布/バレリーナ
(5)生命の指向性
1.小序説 芸術と美術
2.指向性
3.生物学的指向性
4.指向性の実験 ―アメーバ
5.生命の指向性の理念化
自己及び自己の種族/種族/よりよき繁栄/合目的的/まとめ
(6)文化(Civilization)
(7)文化の組成(Composition of Civilization)
1.真(truth)
2.善(good)
3.美(beauty)
4.三要素の等価性と失衡現象
5.文化組成要素の不備 用(utility)
6.四要素の均衡性
7.美と用の連関性 美術:工芸
8.生活芸術群
(8)美の分類
1.自然美 Natural Beauty
2.人工美 Artificial Beauty
意図的人工美/非意図的人工美/機械美について
(9)芸術の分類 文学と文芸/舞踊と舞踏/スポーツ/美術と芸術
1.美術 視覚+空間≒造形芸術
2.音楽 聴覚+時間≒音律芸術
3.文芸 言語芸術
4.舞踊 (体律芸術)
5.演劇 綜合芸術
(10)古典芸術群
A.古典芸術群略説 静観性の美 寂/いき
B.日本文化史略説
時代区分/異称/連想事項/政治的要因/宗教的影響/美の伝統の再生/大陸/西洋美術史
C.古典芸術群各説
1.茶道(サドウ・チャドウ)
味覚芸術のネガティブケース/現実(用)からの離脱/境界帯
2.香道
嗅覚芸術のネガティブケース/香道の由来/源氏香/香余録 蘭奢侍,附 演習2題
3.華道
華道のディフィカルトケース/忌み嫌ひ/調子が跳び出すという問題
4.庭園・能・etc. 省略
(11)美術の分類
A.絵画と彫塑(平面と立体)
1.絵画 絵と画
2.彫塑 彫と塑
3.美術の次元
4.レリーフ(Relief)
5.レリーフ的な作例
6.立体鏡(Stereo-scope)
B.その他の芸術
1.第4次元(Forth Dimension)
2.2次元s×第4次元
映画/テレビジョン/ネオンサイン,イルミネーション/幻灯/万華鏡/絵巻物/紙芝居/影絵芝居/走馬燈
3.3次元s×第4次元
4.映画:プリミティブショー(Primitive Show)(付随問題)
(12)新興芸術群
A.序説
B.リアリズム瓦解の要因
リアリズムの行き詰まりに対する打開要望/写真機の発明による客観的再現の容易/浮世絵の与える純主観的表現への示唆
C.新興芸術群略説
1.印象派(Impressionnisme)
2.後期印象派(Post-impressionism)
3.未来派(Futurismo)
4.立体派(Cubisme)
5.表現派(Expressionismus)
6.抽象派(Abstractionism)
7.構成派(Constructionism)
8.野獣派(Fauvisme)
9.ダダイスム(Dadaisme)
10.超現実派(Sur-realisme)
(13)再現芸術と直現芸術
1.再現芸術と直現芸術
2.工芸と模様の問題
(14)図案
建築/図案/服装/音楽/文芸/彫刻/絵画/舞踊
(15)美術の諸分類法
1.地理的分類(空間的分類)
2.歴史的分類(時間的分類)
3.流派的分類
4.材料的分類
5.題材的分類
6.階級的分類・民俗的分類
7.その他の分類
(16)美術の発展過程の三段階
アーケイック/クラシック/バロック/その後にくるもの/ヘレンの場合/日本の場合
(17)全篇要約 後記

【第2部】

1.人体美学A 概説

(1)序説
(2)人体の方位
A.基礎論(自然科学的略説)
B.応用論(方位の同存化表現)
1.方位による難易
2.古代エジプトの人体表現
3.諸作品の指示
古代エジプトの作例/アッシリアの作例/ヨーロッパの作例/我が国の作例/印象派以後の作例
4.主観的表現の共通性
(3)人体の体制
A.基礎論(自然科学的略説)
B.応用論(左右相称と非相称)
1.左右相称の美的効果
2.左右非相称の美的効果
(4)人体の比例
A.基礎論(比例提示)
1.指極
2.頭身示数
3.中指長
4.身長の1/10
5.前腕長
B.応用論(頭身示数の問題)
1.人種
2.性別
3.年齢
4.環境・その他から個性まで
5.頭身示数大なる作例
6.頭身示数小なる作例
(5)人体の運動
A.基礎論(頸椎の運動)
1.頸椎を前に屈する運動
2.頸椎を後ろへ反らす運動
3.頸を横に傾ける運動
4.頸を横へ回す運動
B.応用論(各運動による表情効果)
1.頸椎の前屈・その作例
2.頸椎の後伸・その作例
3.前屈・後伸の表情効果
4.頸椎の側屈・その作例
5.頸椎の回旋・その作例
(6)結語

2.人体美学B 特殊論

(1)立体観と平面観
1.序説
2.和洋の相違
3.立体感の略解
4.和洋の比較
風景/人体/音声・音楽/油絵と日本画/工芸品/服飾関係/主要面の構成方向/被り物と髪容/補遺 トレーンと長袴
5.立体観の啓培法
(2)成人と幼児の顔面比例の相違
1.成人と幼児の顔面比例の同存化表現
2.顔面下半縮小(reduction)の理由
3.傍証
幼児と成人の口唇の比較/成獣から幼獣への作図/「かわいらしさ」の分析/上品と礼儀/咀嚼器官の量的強大/
咀嚼器官の量的弱小/同存化表現/その他の作例/着想のヒント
(3)人体の有機的構成 ―ポリュクレイトス作「ドリュフォロス像」
1.静止ポーズ中の動勢感
2.等立と偏立
3.偏立によるバランスのメカニズム
足部/膝頭部/骨盤/ウエスト/乳頭/肩峰/両目
4.偏立によるバランスの強調
5.有機的構成により生じる動勢感
6.起立の特殊性
7.有機的構成(Organic construction)
8.有機的構成の展開と応用
9.作例
(4)上下肢運動の交叉性
1.序言
2.交叉性の起源とありかた
3.交叉性に対する対称性と例外
4.人体における交叉性の有用性
5.交叉性の否定
6.交叉性から派生する一問題
(5)動勢表現の問題
1.動勢の意義
2.高度のムーブマン
3.動勢表現の即応例
自動車/独楽の表現/Der Toten Punktによる表現/ポーズの同時化と同存表現/物語的表現/以上のまとめ
4.垂直と水平
キャビンの丸窓/時計の振子/自転車/機関車のクランク/ミュロン作・ディスコボロス像/
5.スピードとその停止形 スキーの直滑降/スケーティング
6.人体の行進 歩行/走行/動物の前進運動
7.群体の動勢表現
8.作例の吟味
レオナルド・ダ・ビンチ筆「モナ・リザ」/ドガ筆「競馬場」/ミレー筆「風に向かえるアポロ」/ゴッホ筆「監獄」/北斎版画「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」/飛天のポーズ/その他の場合/源氏車・片輪車の流れ模様

3.人体美学C 各論

(1)日本民族のタイプの多様性
1.序論
2.多様性の諸例
「見なれない者にはみな同じに見える」/映画で観たいろいろな顔
3.多様性の自然科学的考察
頭髪/鬚髯/頭蓋示数/一重瞼と二重瞼/その他
4.多様性の人文科学的考察
言語/三種の神器/建築/伝説
5.まとめ
(2)頭蓋部・頭髪・髪際
1.頭蓋部
2.頭髪
3.髪際
(3)和風結髪の構成原理
A.なぜ江戸時代の髪容は複雑多岐に発展したか
1.日本人の髪そのものの性質
2.日本風土の性質
3.江戸時代の時代性
性別による発展/年齢による差異/階級・職業による変化/流行
B.その結髪様式は如何なるものか
1.結髪の根本構成原理
2.その具体的解説または示例
3.補遺
C.『顔の形態美』所載 結髪 参考/附記
(4)目の表情
A.美術における眼辺の表情
1.序言
2.上眼瞼部の静的表情
3.上眼瞼の静的表情 補遺
4.上眼瞼の動的表情
5.内眼角・外眼角と睫毛
6.下眼瞼の静的表情
7.下眼瞼の動的表情
8.眼球の静的表情 附記
B.美術における眼の動的表情
1.序言
2.眼球の動的表情
両眼球が平静に眼瞼裂のほぼ中央に静止した場合/両眼球が上方を見た場合/両眼球が下方を見た場合/両眼球が内眼角の方へ互いに近づいていく場合/反対に両眼球が外眼角の方へ互いに離れていく特殊な場合/両眼球が共同で左方,または右方を見た場合/両眼球が共同で一方の外上方を見た場合/両眼球が共同で一方の外下方を見た場合
C.眼辺の表情抄録
1.目の概念
2.眼辺の比例 基礎論/作例
3.眼辺における絵画的存在 血眼/涙/眼鏡
4.眼辺の異状 左右不均整の目/斜眼/片眼/異数の目/ 眼辺の否定/附記
(5)『八方睨み』の原理 ―主に障壁画を対象として
1.序言
2.八方睨みの機構と要因
3.原理の応用と傍証
4.作例の吟味と考察
5.作例の全体的意義
6.補遺 附記
(6)手の表情
A.美術における手のポーズについて
1.欧州美術における手
2.欧州美術上の作例研究
3.東洋美術における手
4.仏像の手の研究
B.手と指の美しさ―東亜民族の特徴の一示例として
挿図説明/附記

末言/西田正秋先生の講義