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現代社版『看護覚え書』(改訳第7版)の優れた特色
 

近代看護の母、フロレンス・ナイチンゲール(1820〜1910) の代表的な著作
とされる 『看護覚え書』 が発表されたのは 1859年のことでした。
 
それはまさに「看護の原点」を示す著作であり、また時代や社会や文化など
の変化を超えて、変わることのない 「看護の原理」 を、さらには「他者に対し
て援助することの原理」 を、透徹した生命哲学として結晶化させた、人類史
上においても比類のない思想を秘めた著作だったのです。

 
◆ ナイチンゲール 『看護覚え書』 の真価
 
古来より人類は、 病気からの回復にとって、 医学的な診断や治療と同等に、
あるいはそれにも増して、「適切な看病」が不可欠であることを、経験的に良
く知っていました。
 
すなわち「適切な看護ケア」は病人の病気からの回復を促進するのに対して、
「不適切な看護ケア」は、回復を遅らせるばかりか、かえって「病気からの回
復を妨げる」という事実は、広く認められていました。
 
しかし、「では、どのような看護が適切な看護であり、どのような看護が不適
切な看護であると言えるのか?」ということ、また「なぜ良い看護が病気から
の回復を促進し、反対になぜ不適切な看護が回復を妨げるのか?」というこ
と、すなわち、良い看護ケアを導きだす基盤である「看護の基本的原理」(看
護とは何か ) については、その法則性も根拠も理論も確立されておらず、た
だ何となく個々の看護者の直感や経験による判断に任されていました。
 
そしてその実情は、今日においてもほぼ同様であると言えるでしょう。
 
同様のことが 「援助する」 ということについても言えることは容易に理解でき
るでしょう。
 
すなわち、「良い援助は、相手を助けて、相手の「持てる力」(潜在的な能力)
を向上に導き」 ますが、「援助のあり方を誤ると、かえって相手に依存心を植
え付け、相手の「持てる力」 や「向上心」 を奪うことにもなりかねない」 という
ことです。
 
ナイチンゲールの 『看護覚え書』 は、こうした問題について、たんなる自分の
経験の披瀝や情緒的 な援助論ではなく、生理学的 かつ生物学的な法則性
や、 その基盤をなす根拠を 明確にしながら、ここに見事な論理を 「看護の原
理」として結晶化させ提示したのです。

 
◆ 歴史に埋没して忘れ去られた 『看護覚え書』
 
ところが不思議なことに、この『看護覚え書』は、発刊の当初においてこそ絶
大な人気を博したものの、その後は 徐々に忘れられていき、およそ100年の
間、ほとんど読まれることもなく、ただ 「かの有名な ナイチンゲールが遺した
著作」 という、骨董品的な価値のみは細々と命脈を保ちながらも、その肝腎
の内容である「人類史にも輝くほどの比類ないナイチンゲールの思想 (生命
哲学)」そのものに対して、それにまともに取り組み、この著作の内奥に籠め
られた深遠な思想に耳を傾ける研究者は出なかったのです。
 
つまり、 歴史は この著作に正当な評価を与えることなく、実に 110年近くも、
殆ど埋もれたままに放置したのです。
 
その理由は、いくつか考えられますが、いちばんの要因 は、ナイチンゲール
に続いて ナイチンゲールの思想から学び、その深みを読み取るだけの実力
と、真摯な学問的姿勢とを身に備えた、優れた看護実践家や看護研究者が
いなかったということでしょう。
 
その流れは 世界的な傾向でしたが、日本においても 同じであり、その名は
広く人口に膾炙され「世界の偉人」 として世の尊敬を集めながら、その肝腎
のナイチンゲールの著作を繙き、 その思想を 積極的 かつ組織的に研究し、
そこから貴重な思想遺産を学びとろうとする人は殆ど出なかったのです。
 
ナイチンゲールは、 世に言われるような、たんなる ヒューマニストや慈善家
などではなく、 自らの経験から たぐりとってきた、 生命と健康についての理
論を、 看護の基本原理として結晶化させ、 その信念を実現することに生涯
情熱を燃やし続けた、偉大な思想家であり、たゆみなき社会運動家であった
のです。
 
そのナイチンゲールの人間としての、 あるいは 思想家としての核心は忘れ
去られ、ただ情緒的、感傷的にナイチンゲールの事績を称賛するのみ、とい
う時代が長く続いたのでした。

 
◆ ナイチンゲール思想の再発見と再構築
 
しかし、1965年頃から、やっと、この 『看護覚え書』 を はじめとするナイチン
ゲールの膨大な著作と、そこに秘められた「看護の原理」 や、さらにその基
盤をなす「生命哲学」とに強い関心をよせ、情熱と確信を抱いて、ナイチンゲ
ールの著作と「ナイチンゲール思想」の本格的な研究にとり組む研究者たち
が出始めました。
 
しかもそれは、 何とこの極東の国、 日本の看護界において始まったのです。
 
すなわち「ナイチンゲール思想の再発見」は、我が国日本において、看護師
を中心とするある小さな研究グループによって開始されたのです。
 
この小さな研究 グループこそ、 まさに 現代社版 『看護覚え書』 を訳出した、
5人の訳者たちだったのです。
 
「現代にあって、ナイチンゲールなど時代錯誤もはなはだしい」 とか 「ナイチ
ンゲールは たんなる環境論者である」 とか 「ナイチンゲールは 現代看護の
進歩を妨げる」など、看護界や福祉界の大勢が、ナイチンゲール研究に対し
て批判的 あるいは無視の時代の最中にあって、5人の訳者たちは ナイチン
ゲール思想の研究に 鋭意取り組み続け、 論理的にも実践的にもその核心
に迫り、ここにナイチンゲール思想の卓越性を見事に証明してみせたのです。
 
そして今や、看護や福祉についてはもちろん、 健康や疾病についても、さら
には生物としての人間の本質という人類史探究の根幹をなす課題について
も、 ナイチンゲールの生命哲学を抜きにしては考えられない、 それどころか、
まさに、 これら課題の核心に ナイチンゲール思想を据えなければ 解けない、
そういう時代が到来するに至ったのです。

 
◆ 専門家集団による本格的な研究と翻訳
 
その脈動は、現代社版  『看護覚え書』 の研究と翻訳によって始まりました。
 
この現代社版 『看護覚え書』 の翻訳研究の実質的な始まりは 1967年です
が、この研究と翻訳の気運は、すでに 1965年頃から、 この翻訳者団におい
て高まっていました。
 
そして、1968年に 現代社版 『看護覚え書』 (翻訳第1版) が出版されるとと
もに、この翻訳者団を中心として、日本において、本格的かつ組織的な「ナイ
チンゲール研究」 が始められ、1972年には、英国ロンドンにまで出向いての、
ナイチンゲールの著作の全貌についての徹底的な書誌学的な探索研究も行
なわれました。
 
そして、こうした研究の結果、 この翻訳者団を中心として、ナイチンゲールの
主な著作の翻訳という大作業が開始され、 1972年から約 5年の歳月をかけ
て 『ナイチンゲール著作集・全3巻』 (現代社、1974〜1979)を完成しました。
 
この著作集の編纂および翻訳については、学界 および出版界など各界から
高い評価と絶賛がよせられ、その結果「第13回 日本翻訳出版文化賞」 およ
び 「第14回 日本翻訳文化賞」 を受賞しました。
 
この学界に権威ある2つの賞の受賞は、看護界における初の快挙でした。
 
この大翻訳作業と並行して、この翻訳者団 は 『看護覚え書』 改訳の作業も
開始しました。
 
それはまず書誌学的研究のし直しから始まり、ナイチンゲール思想の論理的
構造を再構築しながら、それを的確な日本語に翻訳するという作業であり、し
かも、作業は分業ではなく、5人の翻訳者による徹底した共訳、つまり検討に
検討を重ね、それぞれ専門分野からの 解釈や意見を交流しつつ、ナイチンゲ
ール思想の深みを模索するという、それは気の遠くなるほど労苦の多い作業
でした。
 
「誰かが下訳をし、それを主訳者が手直しして仕上げる」 とか 「適当に分担し
て訳す」 といった、いわゆる生半可な共訳などでは ありませんでした。
 
さらに、そうした討議や検討は、 『 ナイチンゲール著作集 』 翻訳の作業との
並行作業であったがために、 むしろ 「ナイチンゲール思想の全体像」 を描い
ていくための絶好の機会となり、改訳  『看護覚え書』 は、 たんにナイチンゲ
ールの 膨大な著作群の内の 1点のみを 抜き出して訳すという、 安易にして
安直な、たんなる翻訳作業ではなく、翻訳作業そのものが ナイチンゲール研
究を飛躍的に進める結果を生み出したのです。

 
◆ 現代社版 『看護覚え書』 の優れた特性
 
この 5人の翻訳者団を中心とした、ナイチンゲール思想の研究と、その直接
の成果である 『ナイチンゲール著作集 全3巻』 と  『看護覚え書』 そして『新
訳 ・ナイチンゲール書簡集 』 と 『原文・看護覚え書』 および 『原文・看護小
論集』 さらには伝記本 『フロレンス・ナイチンゲールの生涯』  (以上、いずれ
も現代社刊)の上梓など、加えて、それにまつわる多くの研究論文の発表な
どは、我が国の看護界と介護界に 静かなナイチンゲール研究の波紋を広げ、
それは時とともに大きなうねりの波動となって盛り上がってきました。
 
そうした時の流れに付随して、『看護覚え書』 にも、現代社版以外にも、いく
つかの訳本が出版されるようになりました。
 
そして、それら訳本には、それぞれの特色はあるとしても、現代社版 『看護
覚え書』には、それら他の訳本には決して見られない、多くの優れた特性が
あります。
 
以下に列挙してみましょう。

(1) 現代社版は 「看護専門家」を中心にした、ナイチンゲール研究の「専門
   家集団」 による翻訳である。
 
   ※ 5名の翻訳者団の構成は、3名の看護師、1名の医師、1名の臨床心
   理学者です。
 
(2) 現代社版は 「徹底した検討討議」 による共訳の産物である。
 
   ※ 5名の訳者たちが、 それぞれの専門的視点から読み取り、それらを
   突き合わせて討論と検討を重ね、了解と納得に達した上での解釈と訳
   文です。
 
(3) 現代社版には、45年にわたる「ナイチンゲール研究の蓄積」が反映され
   ている。
 
   ※ 1965年からの研究開始としても、その訳者団による、実に 45年にも
   わたるナイチンゲール研究の成果の結晶としての、現代社版なのです。
 
(4) 現代社版は、 ナイチンゲールの著作の内から 『看護覚え書』 のみを抜
   き出した翻訳ではない。
 
   ※本書の翻訳の基盤 には、 他の多くのナイチンゲールの著作を研究し
   翻訳してきた、学問的な実績の積み重ねの裏付けがあります。  たんに
   『看護覚え書』 だけを拾い出したものではありません。
 
(5) 現代社版が採用した原文(底本)は「世界でも初めて」の復刊版である。
 
   ※『看護覚え書』の原文には、大別 して第1版 ・第2版 ・第3版の3種類
   の版がありますが、 ナイチンゲール思想が最も強く描出されている第 2
   版の存在を発見し、 世に紹介したのは、 現代社版の訳者団であり、そ
   れは実に約 114年ぶりの復刊です。
 
(6) 現代社版は、世界でも初めて、第2版 に 第3版の16章「赤ん坊の世話」
   の章を付録として編纂された版である。
 
   ※本書には、付録として原文 第3版の第16章 「赤ん坊の世話」 が付せ
   られていますが、 原文の第2版と 「赤ん坊の世話」 の章の組合せという
   編集は世界でも初めての試みであり、その後、英国のある研究者によっ
   て、その意義がみごとに実証されました。
 
(7) 現代社版は、ナイチンゲール研究の進展と共に、すでに 「 6回 にわたる
   改訳」 を重ねてきた実績をもっている。
 
   ※本訳本の第 1版は、1968年に刊行されましたが、その後の研究成果
   を盛り込みながら、 この43年間に、実に 6回にわたる改訳を重ねて、現
   在は 「改訳第7版」 に至っています。
 
(8) 現代社版は、多くの読者や識者からの意見や提案などを反映した「超共
   訳書」であり、いまや、看護界 および介護界に定着した、いわば 『定訳 ・
   看護覚え書』 であり、 看護界と介護界にとっての共有の知的財産とさえ
   言える。
 
   ※改訳のたびに 訳者たちは、 看護界はじめ各界の多くの読者から寄せ
   られた 種々の意見や指摘や提案などを 綿密に検討し、 それらを採用し
   活用してきました。
 
(9) 現代社版には、 詳細を極める 「用語索引」 が付されており、 これにより
   ナイチンゲール思想をより多角的かつ統合的に把握することができる。
 
   ※この 「用語索引」 は、たんなる索引ではなく、キーワード検索によって
   キーセンテンスの検索も可能にした語彙集 (コンコルダンス)です。
 
(10)現代社版は、本文の文字配列 が 「縦書き」 で、 また文字も 「大きな文
   字」 を使っているので、読みやすく理解しやすい。
 
   ※数学や自然科学系の本では横書きに便宜が多いが、本書のような思
   想哲学書や文学書などは、 日本語においては、 縦書きの方が、はるか
   に率直 かつ筋を通して読め、視覚的にも思考的にも読みやすく理解しや
   すい、というのが出版界の定説です。
 
(11)現代社版は、 各章ごとに 「文節番号」 が付されているので、 読み合せ
   や検索に、極めて便利である。
 
   ※各章ごとに、その文章段落(文節 =パラグラフ )に通し番号が付せら
   れており、 抄読会の読み合せや、 キーセンテンスの特定などに 極めて
   便利です。 なお、本書の原文を再版した現代社版 『原文・看護覚え書』
   (英語版) にも同じ文節番号が付せられているので、原文との照合が瞬
   時に可能です。
 
(12)現代社版は、訳注に「脚注方式」をとっているので、読みの流れが中断
   されることなく読める。
 
   ※本書では、訳注を章末や巻末にまとめての掲載としないで、そのたび
   に本文の見開きの左端に挿入(傍注) してあるので、いちいち章末や巻
   末の訳注に当たる必要がなく、本文を読みながら、一瞥して訳注も参照
   できます。なお原注は本文の当該箇所に挿入されており、これも本文の
   流れに沿って参照できます。

以上の理由により、ナイチンゲールの『看護覚え書』 を読まれる方々に、その
テキストとして、 現代社版 『看護覚え書』 (改訳 第7版) を選定 されることを、
また、巻末の 「用語索引」 を最大限に活用 して、徹底した精読 ・通読される
ことを お薦めします。
 



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